裄は短しタスキは長し

数種類のテーマを軸にその時の気分で書きます

2020/06/25 05:58「心のなかの冷たい何か」若竹七海

 一度読んだことがある本なら、中身は大抵覚えている。忘れている場合でも、読み進むうちに「あ、読んだことあるな」と思い至ることがほとんどだ。 

 残念ながら、若竹七海「心のなかの冷たい何か」は読んだことがあるはずなのに、あらすじがさっぱり思い出せない。読み直してもまだ思い出せない。 

 文体とか作風が好みでなければまだ納得できるのだが、かなり好きな作家の作品を読んだ記憶がない、というのは滅多にない。情けない限りである。 

 その「心のなかの冷たい何か」は、失業中の私こと若竹七海が旅先で知り合った女性と約束を交わしたが、相手が自殺を図り、植物状態になっているという。知らせを聞いて間もなく彼女から何ともおぞましい「手記」なるものが届き、七海は彼女の自殺の真相を求めて常習的毒殺愛好者の存在に迫っていく。

 

 本が刊行されたのは1991年。思えばこれまでの人生で一番怖いもん無しだったのが、あの時代だった。 

 私個人だけでなく日本が、社会全体がそうだったと思う。そんなバブル経済の真っただ中の世相や時代の空気を懐かしく思いつつ、サイコパスとかシリアルキラーなんてあくまでもフィクション、しかも日本以外の国の作品、と相場が決まっていた。まさかあの浮かれた時代にあっさり終りが来るとか、日本が舞台のクライムノベルとか、ノワールとか犯罪小説というジャンルがこれほど爛熟する日が来ようとは、そしてついにフィクションではなく、事件が現実のものになる日が来るとは夢にも思わなかった。

 

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