裄は短しタスキは長し

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2017/10/16 21:19 カズオ・イシグロ特集4 「夜想曲集」

 カズオ・イシグロの「夜想曲集」は、作者初の短編集である。

「音楽と夕暮れをめぐる五つの物語」という副題がついているとおり、音楽とベネツィア、ロンドン、モールバン、ハリウッド、アドリア海沿岸のイタリアの都市、舞台となる都市の夕暮れの風景がモチーフとなっている。そして共通のテーマとして各作品で男女間の危機とノスタルジー(若き日の思い出、失われた機会、拡散していく夢)が描かれる。そして奏でる楽器は違うものの、カムバックのために愛する妻に離婚を申し出るとか、(そこにどんな因果関係があるのか)作曲のために姉のカフェの手伝いをさぼってしまうとか、(客観的にみれば彼は限りなくプー太郎に近く、ただ働きに苦情をいえる立場ではない気がする)どの作品も共通して、登場するミュージシャンが例外なく、過剰な自意識の持ち主、というところが面白い。

 作品の長短とその質に相関関係はない、という持論を持つ私は、つまるところ作品のスタイルとして短編小説というものが好きなのだが、訳者あとがきによれば、出版界では短編小説は明らかに逆風だという。日本も例外ではないそうだが、とくに欧米はその傾向が強い。数ページごとに新しい世界に入り込むのが嫌いだったり、面倒くさかったりするらしい。

 今までイシグロは45年に1作のペースで作品を発表しているが、作品を上梓するとプロモーションのため、12年は世界各国で無数のインタビューに費やされるのだという。そのため、執筆時間が思うように確保できないこという不満があったようで、イシグロはプロモーション対策のため、短編集の逆風効果を利用したらしい。(事実、出版社はビジネス上の理由から通常のプロモーション活動を一切行っていない)長編を書くための習作として書いた初期の短編集以来、久しぶりのそして「最初から短編を書くつもりで書いた」という意味では初めての短編集だという。

 このような無数のインタビューを受けることはイシグロの執筆にも影響を与えたようで、外国の識者によるインタビューを重ねるにつれて、作品が翻訳でどう読まれるか意識せざるをえなくなり、何か書くときにそれがどう翻訳されるか気になって仕方がなくなるというのである。具体的には英語でしか通用しない洒落や語呂合わせなどは、翻訳では消えてしまうから極力避けるようなった、とある。

 

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