裄は短しタスキは長し

数種類のテーマを軸にその時の気分で書きます

2020/07/11 06:04 「メゾン・ド・ポリス2 退職刑事とエリート警視」加藤実秋

 「メゾン・ド・ポリス」シリーズ第二弾。

 

 第1弾の印象が「これ以上ドラマ化に相応しい作品はないと思うほど、演出のやりがいがある余白の多さ」だっただけに、本作次第で今後も読み続けるか否かが決まるなと思っていた。結果は・・・「あぁ、やっと物語が始まった」。 

 本作でようやく(?)藤堂の別れた二番目の妻で、現役の鑑識課の捜査官である杉岡沙耶さんや、あろうことかドラマでは故人という設定になっていたが、こちらでは失踪中のひよりの父尚人が登場する。思うにこの第2作を第1作にして「なんなんだ、この集団は?」と思わせておき、第1弾は別の機会にエピソード1のように発表しても面白かったんじゃないか、と思ったりした。 

 驚いたのは、ドラマでは会社の不正を糾弾しようとしていた尚人は、事故とも自殺とも区別がつかない死に方で既に故人となっていたが、小説では失踪中となっていて、実は潜伏中も妻とは時々連絡を取り合っていた、ということになっていて「え、それありなのか?」と一瞬引いてしまった。 

 ところで、サブタイトルの「エリート警視」間宮朝人だが、ラストで「青森の五所川原中央署へ異動」という消息が披露されるが、それってどうなんだろう? 

 そんな辞令もらったら、普通の警察庁キャリア官僚は即退社して直ぐに民間企業に再就職する。敢えて陸奥路へ旅立つようなキャリアとなると、「変人」の誉れ高い竜崎紳也(元警視庁大森署署長・隠蔽捜査)ぐらいだろう。

 

2020/07/08 06:04 「メゾン・ド・ポリス 退職刑事のシェアハウス」加藤実秋

 「ひよっこ」こと新任刑事の牧野ひよりと、退職警察官専門のシェアハウス「メゾン・ド・ポリス」の住人が事件解決に奮闘するシリーズの第一弾。昨年1月、TBS系でドラマ化された高畑充希主演「メゾン・ド・ポリス」の原作である。これが何というか・・・こういうのは初体験だった。

 小説をドラマ化するとき、145分に収めるためとか、台詞で説明しきれない人間関係と登場人物を整理する必要があるとか、大抵の場合中身を削る作業が欠かせない。逆にドラマのノベライズ化は、台本を文章にする時に必ず何らかのボリュームアップが必要となる。

 勿論、ドラマ化にあたって原作にはないキャラクターを新たに加えることはよくあるが、全体としては圧縮する作業が主体だと思う。ところがこの「メゾン・ド・ポリス 退職刑事のシェアハウス」、原作よりもドラマの方がボリュームアップしているような印象を受ける。少なくとも削ったエピソードとドラマ化のために追加したエピソード、プラスマイナスゼロに近いと思う。ドラマ化向きの小説、あるいは最初からドラマ化を意識して(あるいは期待、または内定状態?)書かれている小説なのか?という印象を持った。

 

 

2020/06/25 05:58 「心のなかの冷たい何か」若竹七海

 一度読んだことがある本なら、中身は大抵覚えている。忘れている場合でも、読み進むうちに「あ、読んだことあるな」と思い至ることがほとんどだ。 

 残念ながら、若竹七海「心のなかの冷たい何か」は読んだことがあるはずなのに、あらすじがさっぱり思い出せない。読み直してもまだ思い出せない。 

 文体とか作風が好みでなければまだ納得できるのだが、かなり好きな作家の作品を読んだ記憶がない、というのは滅多にない。情けない限りである。 

 その「心のなかの冷たい何か」は、失業中の私こと若竹七海が旅先で知り合った女性と約束を交わしたが、相手が自殺を図り、植物状態になっているという。知らせを聞いて間もなく彼女から何ともおぞましい「手記」なるものが届き、七海は彼女の自殺の真相を求めて常習的毒殺愛好者の存在に迫っていく。

 

 本が刊行されたのは1991年。思えばこれまでの人生で一番怖いもん無しだったのが、あの時代だった。 

 私個人だけでなく日本が、社会全体がそうだったと思う。そんなバブル経済の真っただ中の世相や時代の空気を懐かしく思いつつ、サイコパスとかシリアルキラーなんてあくまでもフィクション、しかも日本以外の国の作品、と相場が決まっていた。まさかあの浮かれた時代にあっさり終りが来るとか、日本が舞台のクライムノベルとか、ノワールとか犯罪小説というジャンルがこれほど爛熟する日が来ようとは、そしてついにフィクションではなく、事件が現実のものになる日が来るとは夢にも思わなかった。

 

2020/06/21 06:08 「不穏な眠り」若竹七海

 62日のこと。 

 再開した妙高図書館にひと月半ぶりに出掛けて行ったら、遠目に入り口がブロックされているのが見えた。 

「え、ウソでしょ。まだ閉館中?」と動揺しつつエントランスに到着したら、接触機会軽減のため正面の手動の扉だけが使用禁止になっていた。「出入りは左側の自動ドアを使用されたし」ということで自動ドアを二枚通過して入館する。入館した後は貸出カウンターの手前で手指の消毒、おでこで職員の方の検温を受けて、来館者カードに指名を記入する。 

 掲示されている「お願い」など見なくても、「まったりと長居しないでくださいね。」という空気が全館に満ちているので、速足で館内を回る。 

まず雑誌コーナーで「クロワッサン」の「着物の時間」のコーナーをチェック。 

今野敏「清明」なし。 

若竹七海ハードカバー、めぼしいものはなし。 

加藤実秋文庫本「メゾン・ド・ポリス」あった。 

若竹七海文庫本「不穏な眠り」あった。ついでだが「心の中の冷たい何か」の内容を忘れちゃったから、もう一度読もう。 

 というわけで葉村晶シリーズの最新作(といっても刊行されて早や半年だが)「不穏な眠り」。 

 ある時は恐ろしく粘り気のある池にはまり、またある時は大みそかのビルの警備で凍死しかかる。(しかもこのエピソードが後に怪談話に脚色され都市伝説化して再度登場するところが笑える。)今回もハムラは相変わらず「割のいい仕事のはずが、ふたを開けたらとんでもないことになった」的な案件とエキセントリックな依頼人に振り回されるが、今回の目玉は何といっても表題作「不穏な眠り」の「聞き込みの最中に相手に絞殺されかかる」だ。 

 首を絞められた被害者が凶器を外そうともがいて、自分の首を引っ掻いて作る傷。ミステリではお馴染みの「縊死を自殺か他殺かを見定める」ための法医学用語「吉川線」を自ら作ってしまったハムラの、 

「実物を見るのは初めてだ。できれば自撮りしてMURDER BEAR BOOKSHOP』の」SNSにアップしたかった 

には爆笑してしまった。

 

2020/04/28 07:33 「スティール・キス」J.ディーヴァー

 今野敏「棲月」の犯人は、ハッキングによって首都東京のインフラを混乱させた。

 2017年刊行でリンカーン・ライムシリーズの第12作、J.ディーヴァー「スティール・キス」は、ショッピングセンターのエスカレーターが遠隔操作によって殺人の凶器と化す場面から始まる。

 本作ではライムとサックスのコンビに大きな変化が目白押しだ。ライムが犯罪捜査のコンサルタントの職を辞し、大学で教鞭を執ることになった。さらに今回、冒頭のエスカレーター事故の訴訟のため、証拠品の鑑定を依頼されたライムは、熱心かつ優秀な女性の受講生を弟子として新たにチームに加える。

一方ライム不在の捜査に苛立ちを押えられないサックスは、難航する捜査活動に加え、出所してきたかつての恋人ニックが「過去の事件は実は弟を守るために自分が身代わりになった。」と告白される。ついては冤罪を証明するために助けてほしいと依頼されるのだが、その結末が、うわぁ・・・である。

 ヴァーノンの身柄確保はとても印象に残った。犯人の境遇に同情を覚える、というのはディーヴァーの作品には珍しい。

 ところで舞台となったクイーンズのセント・ジョン墓地の描写で、「元NY知事のマリオ・クオモ」とあり、あれ、今の知事もクオモだよね?と思って調べてみると、現職のアンドリュー・クオモ氏はマリオ氏の息子とのこと。時間の経過を感じるのはこういう時だ。

 最後に本作の特大級の変化について。ついにサックスの左手の薬指に指輪がはめられる。

 

ところで。

コロナ対応のため、緊急事態宣言を受け、妙高市図書館がついに臨時休館になった。

ワークシェアの間、森を散歩してネタを仕込むという計画がいきなり頓挫し、途方に暮れている。