裄は短しタスキは長し

数種類のテーマを軸にその時の気分で書きます

2020/02/19 21:24 「みんなのふこう」若竹七海

 

 アンコの甘さと餅の打ち粉の塩気が絶妙な、美味しい豆大福のように中毒性のある若竹さんの辛口コージー「みんなのふこう」。

 

いやー興奮した。

 

 舞台は若竹さんのホームグラウンドともいえる神奈川県葉崎市。

 

 地元のFM局、葉崎FMの週末の番組「町井瞳子のライトハウス・キーパー」には「みんなの不幸」という人気コーナーには、ある女子高生がほぼ月1回のペースで投書を送ってくる。内容はいつも彼女のバイト先の友達、通称ココロちゃんのあり得ないような失敗談と不幸に次ぐ不幸な出来事で、最近リスナーの間で話題沸騰なのだが、問題はそれに続くニュースのコーナーで報道される、これまた世にもまれな事件には必ず、ココロちゃんが何らかの形で巻き込まれているという結末。確かに彼女自身も不幸だが、関わり合った人間はその不正行為や犯罪が明るみに出て、さらに大きな不幸に見舞われる。してみると彼女はある意味ラッキーガールのようでもあり、同時に厄病神のようでもあり、また同時に受難者でもある。

 

 ただ、肝心のココロちゃんはとてつもなくプラス思考というか、めげもしなければ人間不信に陥ったりもしない。さくっと6時間で読みきった。

2020/02/16 12:49 「プラスマイナスゼロ」若竹七海

 小説がドラマ化される時、原作とテイストがかけ離れることを許容できる読者と、そうでない読者がいる。 

私は基本的に後者だが、毎週金曜日午後10放送の「ハムラアキラ 世界で最も不運な探偵」は例外的に面白い。というわけで、これからしばらく、今まで読んだことのある若竹七海作品の紹介と感想を語ることにした。 

 

現在若竹七海さん、といえばもちろん葉村晶だが、葉崎市にまつわるコージーミステリーも外せない。 

「プラスマイナスゼロ」は、その葉崎市が舞台の学園コージーミステリーである。今までは葉崎市の海沿いで物語が展開していたが、今回は山もある。お嬢様のテンコ、ヤンキーのユーリ、成績、運動能力、身長体重、3サイズ゙、靴のサイズ゙までが全国平均というミサキ。荒唐無稽な設定のプラスマイナスゼロ・トリオが遭遇する謎をめぐる物語である。 

普通コージーミステリーは、警視庁捜査一課が出てくるようなハードで殺伐とした場面がない傾向があるが、若竹さんの場合、行間に仕込まれたアクセント、というか一種の毒が胸の奥にしん、と響く、読後に「これってコージーだよね?」と自分で再確認したくなるものが多い。 

1篇はテンコに付きまとう「毎日1時間聞き役をやるのすら苦痛な愚痴っぽい幽霊」にまつわるお話。第2編は浜辺でクリームソーダを味わいながら、青髭のごとき妻殺しの容疑者のアリバイトリックを推理していたらとんでもない結末を迎える。第3篇は一見ささやかそうに見える犯人の悪意が、実は以外に怖かったりする一作。第4篇は、保険金詐欺の常習犯を相手に3人が意外な?大活躍をする。第5編も犯人が企てた復讐の回りくどさ、いやらしさがこの上ない。 

最終篇は典型的な小市民的意地悪を無上の楽しみとしている生徒会にまつわる三人が仲良くなった馴れ初め。ミサキ自身が自分の友達づきあいについて思いを巡らすシーンは皆ドキリとさせられるに違いない。 

凶悪犯罪ではなくとも、犯人の心の中に、そして誰の心の中にでもある負の要素を描き出す技量は、さすが若竹さんである。

 

2018/04/08 19:57 フロスト始末・R・D・ウィングフィールド

 R.D.ウィングフィールド「フロスト始末」を読み終わるまで2週間かかった。 

 ボリュームはなかなか。だが、2018年版「このミステリーがすごい!」海外部門で堂々の第1位、文章のテンポが悪いわけでもない。なぜ昔のようにイッキ飲みならぬイッキ読みが出来ないのか・・・ここに来て読みのスキルが急降下したのを痛感する。フロスト警部シリーズを読むと、特に痛切に感じる。 

 第1作「クリスマスのフロスト」を読んだ頃はこうではなかった。作品自体も上下巻ではなく、もっとタイトだったし、次々と起こる凶悪犯罪に対する私の耐久力も、今よりずっとあったような気がする。それもそのはず、2018版「このミス」によれば、第1作が登場したのは94年版。読んでいた私は今より二回りも若かったのだ。どうりで読み終わると疲労困憊するわけだ。 

 

 さて、「フロスト始末」だが、冒頭で犬が人間の脚らしきものを加えて登場してきたのを皮切りに、変死体が次から次へと登場する。かと思えば、幼児の連れ去り、小児性愛嗜好者による画像の交換会、地元のブラック企業であるスーパーマーケットへの恐喝、連続少女強姦事件と拉致事件などなど、デントン市は相変わらず物騒なベットタウンだ。

  我らがフロスト警部の身辺も何やらきな臭い。絵にかいたような俗物のマレット警視がフロストをデントン警察署追い出すべく、スキナーという警部を呼び寄せる。追い出しを食い止められずに自棄になったフロストの思い付きと勘による行き当たりばったりの捜査は極限に達するが、果たしてフロスト警部がデントンを去る日がくるのか?結末は読んでからのお楽しみである。 

 作品紹介では彼が亡き妻との新婚生活を回想し、しんみりするところを見どころとして挙げているが、私のおススメは、何といっても廃業した精肉店での乱闘シーンだ。悪夢を見そうなくらい迫力があるので、できれば寝る直前に読むのはお勧めしない。 

 ちなみに、全作品をよーっく読んでみるとわかるのだが、フロスト警部はグロテスクな死体の話と下ネタは連発するが、案外女性の部下に対するセクハラ発言がかなり少ない。なんだかんだ言って、ジャックはキホン、いいやつ、なのである。

 

2018/03/25 19:06 「お伊勢参り」平岩弓枝

 重量感のある作品や一見の作品が続くと、楽に読める作品が読みたくなる。難解かどうかよりも、なじみがあるかどうかのほうが重要で、平岩弓枝さんの「御宿かわせみ」シリーズはその代表格である。 

 シリーズ最初で最後になるであろう長編「お伊勢参り」は、例えてみると長編TVドラマで、ストーリーが半ばまで来たところで、「今からでも間に合う『御宿かわせみ』を10倍楽しむこれまでの総集編」のような、来し方を振り返り次回作への期待を促す作品である。 

 台風の被害で大規模改修を余儀なくされ、長期休業となった御宿かわせみ。女将の神林るいは旧知の仲の畝千絵の誘いで伊勢参りに行くことになったのだが、道中は何かと問題が発生し、さながら「明治の東海道ロードムービー」のような様相を呈してくる。 

 また旅館業から解放されたるいは、客として旅をする気楽な身分であることから、徳川の御代から明治維新を経た現在までを回想する。 

 伊勢から戻ってかわせみを再開し、るいには初孫、千絵には二人目の孫の知らせが届いたところで物語は終わる。

 

2018/02/25 20:26 「ギリシア人の物語Ⅲ・新しき力」塩野七生

 アテネの繁栄の頂点と凋落を描いたⅡを返して新しく入った本の書架を眺めていたら、塩野七生「ギリシア人の物語Ⅲ・新しき力」を発見。せっかくだから続けて読んじゃえ、ということで借りることにした。 

 デロス同盟の崩壊によってアテネがギリシア世界の盟主の座を失い、スパルタが台頭してくるところから物語は始まる。スパルタに続いてテーベが台頭、それでもギリシア世界の凋落は止まらず、後半は彼らに変わって地中海世界の主となる「新しき力」、マケドニアのフィリッポス、アレクサンドロスの親子へと物語は進み、最後はアレクサンドロスによるヘレニズム世界の完成と早すぎる彼の死、その後の内紛で物語は終わる。 

 キリスト教とは全く無関係でありながら、後世大王、大帝の称号を付けて呼ばれる王はアレクサンドロスだけだという。それだけではない。欧米にはアレクサンダー、アレクサンドル、アレックス、アレクサンドラ、アレクシスなど、彼にあやかった名前の持ち主が多数存在する。 

 何がそんなに人々を惹きつけるのか、については理解できるようなできないような、と私の見解は複雑だ。その偉業を見れば「あっぱれ」の一言だが、ああいう男が身近にいるってのは「ムリ」かもしれない。仮に私が男で彼の家出仲間の一人だったら、「勘弁してほしいっす、でも王様についていくっす」とあらゆる分析行動を放棄し、無条件降伏しないと行動を共にできない気がする。 

 凄いことはもう一つある。ペルシア王のヘタレぶりだ。アレクサンドロスの非凡さを「へへーっ」とひれ伏す思いで読む私に、そのヘタレっぷりは一抹の慰めを与えてくれた。思わず「王様なのにダリウスひどすぎ。でも、意外に嫌いじゃない」と呟いてしまった。