裄は短しタスキは長し

数種類のテーマを軸にその時の気分で書きます

2021/01/14 19:23 「サブマリン」伊坂幸太郎

 連作短編「チルドレン」で強烈な印象を残した家裁調査官、陣内と武藤に15年ぶりに「サブマリン」で再会することが出来た。

 

 無免許運転で事故を起こし、相手を死なせてしまった少年棚岡とサイバー愉快犯のような小山田を担当することになった武藤調査官。中々心の内が見えない棚岡少年には、誰にも言えない過去、というか動機があった。それはかつて陣内調査官が担当した事件にも関係しており、調査は陣内の旧友、長瀬などを巻き込んで、思わぬ方向へと進展していく。やがて二人は事件の真相にたどり着くのだが、終盤思わぬところで小山田少年が関わってくる。

 

 少年犯罪と更生。事件であれ事故であれ、死亡案件ともなると彼らのその後の人生には、厳しい未来が待っている。無神経なのか気配りが行き過ぎているのかわからない陣内の行動に読み手も翻弄されながら、被害者を取り巻く人たち、加害者と彼らを取り巻く人たち、そしてそこに寄り添う調査官たちの力を借りて、過ちを犯す、罪を犯す、そしてそれを裁き、処分を下す。その線引きの難しさと苦さについて考える。過ちを悔い、償いについて答えを探し続ける、そのことについて考える。

 

2021/01/07 14:42 「フーガはユーガ」伊坂幸太郎

明けましておめでとうございます。今年もよろしくお願いいたします。 

 

 常盤優我と常盤風我の双子の兄弟は、誕生日の日になると二時間おきにテレポートでお互いが入れ替わる。 

 極めて厄介な超常現象だが、二人はなんとか対処法を見つけ、誕生日を乗り切るのだが、一方でこの現象を利用し、一世一代の人助けもする。 

 伊坂幸太郎さんの「フーガはユーガ」はこうやって二人の子供時代から思春期、成人した後の人生を描いていくのだが、これがなんというか・・・結構手ごわかった。 

 最初に悩むのが、前半のDVシーン。親父の暴力の描写に加えて、それを回避すべく健気に努力する子供の描写というのは、読んでいて結構しんどい。 

 その次に来るのが、風我の恋人小玉ちゃんを助けに行くシーン。こんな醜悪な暴力行為って、中々お目にかかれないよな、この小説絶対映画化できないな、と思うほどの醜悪さで、二人の計画がうまくいったときは、本当にホッとした。 

 そして成人した彼らは、それまでの人生で最悪の宿敵と対決する計画を立てるのだが、その伏線がストーリーのかなり早い段階から伏線が張られていて、「え?あぁ、そういうことなの!」と驚かされる。

 

 

 

2020/12/11 20:17 「クジラアタマの王様」伊坂幸太郎

 伊坂幸太郎さんは、千里眼か名品の水晶玉でもお持ちなのだろうか。 

実際に伊坂幸太郎著「クジラアタマの王様」を読めば、私が言いたいことがお分かりいただけるはずだ。 

 お菓子メーカー勤務の男と、代議士と、アイドルグループのメンバーの青年。実生活で何の接点もなさそうな3人は、過去のある事件と偶然がきっかけで巡り合うことになった。各々の自覚症状(?)に差はあるものの、実は彼らは夢の中で、ファミコンやオンラインのRPGのキャラクターのように、助け合って怪物と戦っているのだ、という。 

 やがて彼らの夢の中での戦況は、どうやら目覚めている間の彼らの実生活にも影響を及ぼしていることが明らかになり、時には密に、時に疎遠でありながらも影ながら、彼らは仲間の誰かが危機に陥ると一致団結して敵に立ち向かう。 

 夢の世界での彼らの敵が、巨大な熊とか寅とかそのキメラみたいな怪物である一方、彼らの実生活でのそれは、お菓子メーカーが受けるクレーム攻撃やSNS上での炎上とか、サーカスから逃げ出した猛獣とか、新型ウイルスのパンデミックだ。 

 特に最後のパンデミックに至っては、新型コロナの第3波に見舞われているさなかで読んでいるから、その臨場感に圧倒される。本作の刊行は20197月。執筆は実際のコロナ禍より前で、伊坂さんはその世界を完全に創作として書いているはず。にもかかわらず、そこに生じる群集心理と言うか、集団ヒステリーみたいな現象の描写の一つ一つが正確、的確なことに驚いた。

 

2020/12/06 06:34 「ミステリー・クロック」貴志祐介

 嵐の大野智くんと、戸田恵梨香さん、そして小説には出てこないが、佐藤浩市さんというキャスティングで好評だったTVドラマ「鍵のかかった部屋」だが、原作の方はシリーズ第3段「ミステリー・クロックともなると、結構読んでいてしんどい。 

 しんどいのは多分私が歳をとったせいなのだと思うが、密室殺人のトリックの難解さとテクノロジーの進歩がなんというか、「やり過ぎ」の領域に達してしまっていた。 

 視覚トリックを利用した迷路、いくつもの時計の特性を利用したアリバイ工作、そして推進数百メートル下での復讐劇。テクニカルタームが多すぎて、その記述を読んでいるうちに消耗してしまった。 

 犯行の手口だけではない。「密室といえばレスキュー(法律事務所)の青砥先生」という評判が法曹界で完全に定着してしまった青砥純子が、密室トリックの解明は相方の榎本に任せておけばいいものを、変な仮説を次から次へと繰り出すものだから、「青砥先生、一応弁護士なのに何でこうもおバカなのよ」と無駄に疲れてしまう。 

 先日、読売新聞に本作の文庫版が刊行の広告があった。「ミステリー・クロック」は2冊に分けて発売されるらしい。確かにあれをそのまま文庫化したら、ボリュームがありすぎて手に余ってしまうだろう。妥当な判断だと思う。

 

2020/12/01 06:38 「クリスマスを探偵と」伊坂幸太郎

 12月になりました。 

 会社のワークシェアリング体制で、なんと一か月全休していたリアルついしょうこは、引き続き今月も全休という、リーマンショック以来の「究極のお茶引いてます状態」となりました。 

 ただ、リーマンショックの時より所得補償が充実している点では、今回の方が救われているな、と感じています。 

 

 ハードカバーのあ行の書架で、サイズがイレギュラーで並んだ本から一冊だけ飛び出していて目を引いたのが伊坂幸太郎文、マヌエーレ・フィオール絵「クリスマスを探偵と」。伊坂ワールドは殺し屋や泥棒が、真面目なのかふざけているのかわからない台詞を吐きながら仕事(?)に精を出すシュールな世界。当然クリスマスの探偵さんも、ほっこりするような展開は望めないだろうな、と思っていたら、これが意外にも探偵カールは対象を尾行し行き先を突き止め、そこで張り込みするだけという地味な展開。 

 館に入っていった対象が出てくるまでの間、カールは近くの公園で時間を潰すことにするが、そこにはベンチに座って本を読む若い男がいた。 

「こんな寒い中、外で読書とは、何かの訓練か」というカールに 

「寒さと暗さでもうお手上げでした」と苦笑するする男。クリスマスの宵のひと時、二人は取り留めのないおしゃべりを始めるのだが、時節柄サンタクロースのことに話が及んだのをきっかけに、カールは子供の頃のクリスマスの思い出を語りだす。今回の依頼人と、今尾行している対象と、そして自分。プレゼントのこと、両親の不和。家を飛び出したこと。クリスマスのまつわる苦い記憶がカールの胸に蘇ってくる。 

 最初はただの聞き役だった男は、途中からなにやら合いの手が積極的になり始め、しまいには「にわかカウンセラー」のようになって、一見こじつけとしか思えない変な仮説を展開し始める。やがて館から出てきた対象は、なんとサンタクロースの扮装をしていた。 

「もっと家の近くで着替えればいいだろうに」とカール。 

「ですね」と男。 

やがて男の連れがやってきたことで、カールは彼を見送る。 

 伊坂さんだからシュールな減らず口が次々と飛び出すんだろうな、という予想を裏切って、ラストは中々ハートウォーミングな結末だった。