裄は短しタスキは長し

数種類のテーマを軸にその時の気分で書きます

2017-08-22 20:38:37.0 もっと落語会に行きたい

 デニス・ルヘインは予想以上に重かったので、次は日本語のものか、翻訳でも少し軽めのものがいいな、と書架に足を踏み入れて間もなく、愛川晶の神田紅梅亭寄席物帳シリーズの第5弾「『茶の湯』の密室」を発見。書架の徘徊は(それでも習慣で一巡したが)十数分で完了した。

 前作の「示現流幽霊」で真打昇進が決定した八ちゃんこと寿笑亭福の助さんは、襲名披露で大忙しでは?と予想していたら、何と作品の中も現実と同じだけ時間が過ぎており、名前も山桜亭馬伝師匠を襲名済み、語り手である妻の亮子さんとの間には、なんと長男雄太君まで誕生していた。驚いたが、真打昇進にまつわるあれやこれやばかりを書き連ねるのは、確かにお話が面白くなさそうだ。馬春師匠ではないが、「ガテン」である。

 構成は話の数がぐっと絞られ、表題作の「『茶の湯』の密室」と「横浜(ハマ)の雪」という、やや長めの短編が2編。個人的な好みからすれば、表題作より後者のほうが面白かったので、こっちが表題作で良かったのでは?と思ったが、考えてみれば作中に出てくる「横浜(ハマ)の雪」は、新作の創作落語。やはり寄席もの、噺家さんつながりです、というところを主張するためにには古典の外題「茶の湯」が必要だ。こちらも「ガテン」。

 

 読み終えて無性に落語を聞きに行きたくなるし、「横浜(ハマ)の雪」実際に上演しているところを見たくなること請け合いである。

 

2017-08-10 22:15:55.0 デニス・ルヘインのエッセンス

 次に何を読もうかなと館内をさまよい歩き、ハヤカワ・ポケット・ミステリの書架に、デニス・ルヘイン「ザ・ドロップ」を発見。「ミスティック・リバー」以来だな、と思って手に取ると、中々ポップで素敵な装丁。厚さも手ごろだな、と借りることにした。

 ポケミスにしては薄めで、気軽に読めるかと思いきや…これが「ミスティック・リバー」をぎゅぎゅっと凝縮した、ルヘインのエッセンスのような作品で、これがなかなかの読み応えだった。

 バーテンダーのボブが、道端で子犬を拾った瞬間、彼の人生が激変する。ところがこのボブさん、従兄の店を手伝う、さえないおじさんのようであり、登場人物のなかで一番の危険人物のようでもあり、最後まで結末が読めない。うわぁ、読者を突き放すような、こんな結末って…でも何かしら救いのある結末を用意したいと思ったら、これしかないのかもしれない。

 

2017-07-07 20:40:36.0 心の準備

(「テロ」の装丁。今回は特別に裏表紙も掲載)

 

 というわけで、シーラッハの「テロ」を借りる。(「というわけで」のいきさつについては、前回を参照されたし)刑事裁判の進捗をそのまま戯曲にした法廷劇で、読者は観客であり、また裁判の参審員(アメリカの陪審員、日本の裁判員のようなものらしい)の役で劇に参加する構成。結末は有罪と無罪の2種類が用意してあり、どちらの判決を下すかはあくまでも読者自身、というわけだ。 

 では公判の争点は何かというと「多くの人を救うために無辜の人間を殺害することは許されるのか」というもので、もうこれはどちらが正しいかという類の問いではなく、またどっちもありだよね、と折衷案を提示することも不可能な厳しい選択を迫られる。 

 今のところ、日本国内の日常生活で一般市民がこのような判断を強いられることはごくまれだ。だが海外に目を向ければそれが許されない世界が急速に広がっている。EUもアメリカも、誰も望んで分断したわけではない。おそらく本人たちも訳が分からないまま、残酷な究極の選択をさせられた結果なのだ、と私は思う。 

 なんの準備もないまま、いきなりこのような事態に直面して思考停止に陥らないよう、予め想像力を駆使してほしいととシーラッハは伝えたいのかもしれない。

 

2017-06-29 22:19:35.0 最良それとも最悪の食べ合わせ?

 ヴェルーヴェン3部作の後、そのままルメートルの作品を続けて読む気になれなくて、「ここは箸休め(?)だな」とジャック・リッチー著「ジャック・リッチーのびっくりパレード」を読むことにした。 

 意外だったのは、収録されている短編に、極めてSF色の強い作品、殊に異星人が登場するものがあったこと。ターンバックルやカーデュラ探偵社も定番で安定感のある切れの良さだが、今回はノンシリーズの作品のほうが面白かった。 

 問題は、「このミス2017年版」を眺めていた私が、無性にFV・シーラッハの作品が読み返したくなり、本作と一緒に借りたことだった。どちらも短編集だが、この2作品はテイストは真逆だ。結果リッチーの読み込みは消化不良気味に終り、全体の印象はかなり薄くなってしまった。なぜこんなものを同時に借りてしまったのだろう。間がさした、としか言いようがない。 

 というわけで、多分ルメートルはまたもや後回しになり、次に借りるのはおそらく「テロ」(シーラッハ著)のはず。あぁやれやれ、である。

 

2017-05-25 21:54:16.0 3部作しかあり得ない

 P.ルメートルのヴェルーヴェン3部作の最後を飾る「傷だらけのカミーユ」は、なんというか・・・読み終わって複雑な気分だった。伏線の張り方の巧みさやストーリー展開は、さすがルメートル、というクオリティだが、作品は大満足だが主人公に失望した、というのに近い。 

 チームワークが売りのヴェルーヴェン班は、アルマンの死で事実上崩壊してしまったから、では言い訳にならない。強盗障害事件の被害者が自分の恋人だったがゆえに、強引すぎる捜査の様子もいただけないし、事情を知りつつそれを黙認するルイもどうかと思う。このミスの解説では「部下や元上司が温かく支え」と書かれているが、そんなものだろうか?読みながら「あぁ、こんなぶっ壊れたカミーユを見ることになろうとは」と哀しい気持ちでいっぱいになった。 

 これだけヒットした作品なら3作で終わらせず、シリーズ化を望む声も少なくないと思うが、主人公があれだけ破綻してしまった状態では、3部作で正解だと思う。