杉みき子さんを応援する会

2011-09-13 17:37:39.0 杉みき子選集(完結)出版記念会のお知らせ

 杉みき子先生の珠玉の作品を集めた全10巻の選集がついに完結!

 それを記念して、10月1日(土)に出版記念会が開催されます。

 杉先生による記念講演や作品朗読、合唱団うみなりによる合唱も予定されています。
 
 また記念会開始前13:30~と終了後にサイン会・本の販売も行います。

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 ◆日時:2011年10月 1日(土)14:00~16:00(13:30受付開始)
 ◆会場:料亭 やすね(上越市仲町2-2-3 (地図)Tel 025-524-7125)
 ◆申込方法(入場無料 定員200名)

   お申し込みは郵便はがきにて受け付けます。
   住所・氏名・電話番号・希望人数を明記の上、下記までお申し込み下さい。

   〒943-0832
    上越市本町5-5-9 ランドビル1F
     
    高田文化協会 杉みき子出版記念会係


 お問い合わせは、高田文化協会 025-525-2205までお願い致します。

 お申し込みをお待ちしております。




 

2010-04-13 14:16:29.0 春の川(後編)【「くびき野ものがたり」より】

 「わたしの母は、毎年、雪がとけると、この関川の土手へ来て、フキノトウをつむのを楽しみにしてましてね。わたしも小さいとき、よく連れてこられました」

 「ここ、そんなにフキノトウが出たんですか」
 「ええ。今は、土手の上もこうして広くして、きれいになってますけど、そのころは、道もせまいし、斜面も急で、草ぼうぼうでね。その斜面の草のなかに、半分、土にうずまって、フキノトウが顔を出してるんですよ。それを見つけるのが、ほんとに楽しかったなあ」

 小さいころのマツノさんて、どんな子だったんでしょう。どうも想像がつきません。

 「あれは、学校へあがる前の年くらいでしたかね。その日は、お天気もいいし、風はさわやかだし、それはそれは気持ちのいい日でね。母といっしょに、川の音をききながら、フキノトウをつみつみ、ずんずん歩いてるうちに、目の前で、川が急に大きくなったんですよ」

 「大きくなったって、ひろがったんですか?」

 「ええ。びっくりしてたら、母が、<おや、直江津の海まで来ちゃったよ>って」
 「えー?ほんとですかあ。まだ、小学校へもあがらない子どもだったんでしょ」

 「そうなんです。いま考えれば、母にからかわれたのかもしれないけど・・・。でもね、そのとき、<川をずんずん下って行けば、海に出るんだ>って、はっきり思ったのが、今でも忘れられないんですよ」
 「そうか。地図で見れば、わかりきったことなんだけど、じっさいに歩いてみれば、いちばんよくわかりますよね」

 「そうなんです。だから、そのときのおどろきを、もういちど味わいたいと思って、すこし大きくなってから、何度も何度もためしてみたんですよ。川はほんとに海へ出るのか、ってね。このへんから、土手の上をずーっと歩いて」

 「そしたら、どうでした?」
 「まるっきり、だめ。途中でとつぜん雨が降ってきたり、牛がとおせんぼしてたり、土砂くずれみたいなとこがあったり。とにかく、なにかしら、じゃまが入るんです」

 そこまで話して、マツノさんは、ふと足をとめました。

 「あ、ほらね」
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 見ると、遠くに見える橋の手前あたりに、大きなダンプカーが道をふさいで、そのまわりをスコップを持った人が何人も、動きまわっています。なにか工事でも始まるのかもしれません。やっぱり今日もマツノさん、直江津へは行けないわけです。

 「だけどねえ、マツノさん」と、ぼくは思いついて言いました。

 「そのときは、お母さんといっしょで、いいお天気で、フキノトウつんで、川について新しい発見もして、とても楽しかったんでしょ。きっとそのとき、直江津まで歩く楽しさを、みーんな使いきってしまったんですよ。だから、もうあとは使えない」

 「うーん、なるほど。じゃあ、今日のところは、これくらいでがまんしときますか」

 マツノさんは笑って、足もとにのびていたツクシを、ツンと折りました。


(おわり)

2010-03-20 11:44:23.0 春の川(前編)【「くびき野ものがたり」より】

 配達が思ったより早くおわったので、ちょっと道草をする気になりました。
 この道をもうすこ行けば、関川です。春の川はいいだろうな、と思って、なんとなく、そっちへバイクを向けました。
 公園のお堀のまわりは、いろんな車が行ったり来たりしていますが、そこから東の道へ入っていくと、ふしぎなくらい静かです。家のあいだにひろい畑があって、青い草がぽつぽつ見えていたりします。そのむこうに、白い花がいっぱい咲いている木は、梅でしょうか、桜でしょうか。どこからか、ジンチョウゲのかおりが、かすかに流れてきます。

 お宮のわきから、関川の土手へ、小さな木の階段がついていました。土手の上には、しゃれたかたちの木のベンチがあって、だれかが向こうむきにこしかけています。そのうしろ姿に見おぼえがあったので、ぼくは道のはしっこにバイクをとめて、木の階段をかけあがりました。

 「マツノさん! おひさしぶりです」

 「やあ、ハヤシさん。ごめんください」
 
 マツノさんは、ふりむいて、にこっとうなずきました。

 「わあ、ここはいい気持ちですね。ひろびろして。空気までおいしいみたいだ。」

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 目の前には、動いているのかいないのか、わからないような、大きな川のゆったりした流れ。ところどころ、とぷん、とぷん、と小さな波が立って、そこがきらっと光ります。川のむこうには、まだ葉のでない木がならんで、鳥の声が、ツツピー、ツツピー、ときこえました。

 「マツノさん、きょうは、どちらへ」
 マツノさんは、ちょっと迷ったような顔で、

 「いや、じつは直江津へ行こうと思って」

 「直江津?こんなとこ、バスは通りませんよ」

 「あたりまえでしょ。だれも、バスに乗るなんて言ってません」

 「電車はなおさら通りませんけど」

 「いやだなあ、どうしてそう乗りたがるんです。人間には足があるでしょうが、足が」

 「はあ?歩くつもりなんですか、直江津まで」

 「はい」

 「むりですよ、むり。けっこう遠いですよ、いくら一本道だって」

 「いや遠くたっていいんですよ。べつに、急ぐ旅じゃないんだから」

 「だって、くたびれますよ。途中で遭難しちゃったりして」

 「まさかね。そうじゃなくて、わたしが迷ってるのは、ほかにわけがあるんです」

 「わけ、って?」

 マツノさんは声をひそめて、

 「わたしはね。この土手を通って直江津まで行くことは、ぜったいできないように、きめられてるんじゃないかと思うんですよ」

 「なんでまた、そんなことを」

 「何度やってみても、うまくいかないからですよ。まあ、聞いてください」

 マツノさんは立ちあがると、ゆっくり土手を歩きながら話し出しました。

(つづく)

2009-10-26 14:06:54.0 夕日さんのお気に入り(後編)【「小さな町のスケッチ」より】

 ・・・・・・・十年以上も前のこと、おばあちゃんは、庭の柿の木に毎年たくさんの実がなる中で、いつも一つだけ、ずいぶん早くから色づく実のあるのに気がついた。ふしぎに思って、たびたび庭に出て観察していると、ある日の夕方、沈もうとする夕日の光が、茂った葉のすきまから、まっすぐにその実をめがけてさしこんで来たんだって。
 それから気をつけて見ていると、毎日、毎日、夕日が沈むたびに、その光が、その実にだけあたってる。そして、その実は、ほかのどの実よりも早く、赤くなったんだって。
 それは、ほんとのことらしかった。ぼくもその話を聞いてからは、毎年、夏休みのおわることになると、おばあちゃんのとこへ行ってみるけど、夕日はたしかに、いつでも同じようなところにさしこんで、そこにある実を一つだけ、はやばやと赤く染めていたよ。

 ところが今年。

 おばあちゃんの家の東側の小さなあき地に、新しい家ができた。おまけに、西側のおとなりさんが、建てましをして、屋根が高くなった。それは、ひとの家のことだから仕方ないけど、困ったことに、柿の木に夕日があたらなくなっちゃったんだよ。
 ぼくは心配したけど、おばあちゃんは案外、平気だった。そして、それで正解だったんだ。

 夏休みのおわる日、柿の木を見に行くと、いつものところに一つだけ、それこそトマトみたいな赤い実が、すましてぶらさがってたんだよ。

 「夕日があたらないのに、どうして?」
 おばあちゃんをふり向いたとき、ぼくは思わず「あっ」と声をあげて目をふさいだ。




 東側の新しい家、二階の大きなガラス窓に、まっ正面から夕日があたって、まるで光の海だ。そこから反射したまぶしい光が、まっすぐに柿の実のところへとどいてたんだよ。

(終わり)

2009-10-13 14:09:13.0 夕日さんのお気に入り(前編)【「小さな町のスケッチ」より】

 おばあちゃんの家に、大きな柿の木がある。
 ぼくがまだ小さいころ、なんの気なしにその木をながめていたら、茂った葉の中に、赤い大きな実がちらりと見えた。

 「おばあちゃん、トマトがなってる!」

 思い出すと、ふきだしたくなるよ。柿の木に赤い実がなってれば、柿の実にきまってるじゃないか。いくら小さいときだからって、柿の実をトマトとまちがえるなんてね。
 でも、それは夏のおわりごろだったから、柿の実はまだ小さいし、みんな葉っぱと同じ色で、見わけなんかつかない。その中に、赤い実が一つだけあったんだから、柿じゃなくてほかの実だと思っても、まあ、むりもないか。

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 おばあちゃんは笑って、

 「トマトじゃないよ、柿の実だよ」
 「だって、ほかの実は、まだみんな青いみたい。どうしてこれだけ赤いの?」
 「そりゃ、柿の実だって、のんびりさんもいれば、せっかちさんもいるだろ。せっかちさんは、秋になるのを待ちきれないのさ」
 「ほんと?」
 「あはは、うそ、うそ」
 おばあちゃん、ぼくをからかってるんだ。

 でも、そのあと、まじめな顔になって教えてくれた。

 「ほんとはね、あの実は、夕日さんのお気に入りなんだよ。夏のうちから、あの実だけ、毎日、毎日、まっすぐに照らしてくれるから、こんなに早く赤くなるのさ」

(つづく)

2009-07-29 13:23:40.0 梅の実ころころ(後編)【「小さな町のスケッチ」より】

 ところがある日、いっしょに梅の木をながめてたおばあちゃんが、はずんだ声を出した。

 「ああ、ことしもたくさん実がなった。ええと、ひとつ、ふたつ、みっつ・・・・」

 「どこどこ、ねえ、どこに?」

 「ほら、ここにも、そっちにもね」

 おばあちゃんが、ひとつひとつ指さして教えてくれて、やっとあたしにも見えてきた。一つ見えると、あとからあとから見えてくる。

 「ずるーい。葉っぱとおんなじ色してるんだもの」

 「梅の実は、かくれんぼがうまいんだよ」

 おばあちゃんは、にこにこ笑ってる。
 梅の花の咲く木に、たしかに梅の実がなったので、あたしは安心して、それからしばらくの間、梅の木にごぶさたしてた。

 そして、そろそろ暑くなるころ、ひさしぶりにおばあちゃんの家へ行ってみて、びっくり。庭に出したざる一ぱいに、まっかっかの梅の実が、あふれるようにひろげてあるんだもの。

 「わあ、すごーい。あの緑の実に、お日さまがたーくさんあたって、こんなにまっかになったんだね。」
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 「そうだよ。この梅ぼしを食べれば、からだじゅう、お日さまでいっぱいになるよ」
 おばあちゃん、すましてうなずいた。

 でもね、もうすこし大きくなってから、気がついたの。あのとき、おばあちゃんが朝市でいっぱい買って来たシソの葉が、台所のすみで、「なんだい、おれたちががんばったことも、忘れないでもらいたいね」って、ぶつくさ言ってたにちがいないよ。

2009-05-29 19:55:08.0 梅の実ころころ(前編)【「小さな町のスケッチ」より】

 おばあちゃんの家に、大きな梅の木がある。
 春になって、雪がとけるころ、まっ白い花がいちめんに咲く。夏のはじめこごろ、雨の日がつづくようになると、枝いっぱいに、緑のピンポン玉みたいな丸い実が、たくさんなる。

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 あたしは、ちっちゃいころ、白い花の咲く梅の木と、緑の実のなる梅の木とは、べつべつのものだと思ってた。花が散ってから実のなるまでの間に、花の咲く木はこっそり引っこして行って、そのあとに実のなる木がやって来て、すまして立ってるんだと思ったの
 木の引っこしって、見たことない。やっぱり、ひょこひょこ歩いて行くのかなあ。
 おばあちゃんに聞いてみた。
 「ねえ、この木、いつ引っこしするの」
 「うん?」
 おばあちゃんが、ふしぎそうにあたしの顔を見るから、よく説明してあげたら、おばあちゃん、ひっくり返りそうになって笑った。
 「あのね、花の咲く木も、実のなる木も、おんなじ木なの。花が散ったら、そのあとに実が生まれるんだよ」
 まさかぁ。でも、ほんとなら、その、花のあとに実の生まれるところを見たい。
 それから、しょっちゅう、おばあちゃんの家へあそびに行って、梅の木をながめてた。でも、いっこうに、実の生まれてくるようすはない。

(つづく)

2009-03-07 11:27:47.0 馬よ、馬よ(後編)【「小さな町のスケッチ」より】

(つづき)
 みんな大よろこびで、それぞれに準備をととのえた。たいていは残雪を借りて、まわりのあおい山肌の中に、自分の白い姿をあらわすようにくふうしたらしい。
 越後と信濃の国ざかいにそびえる美しい山には、とりわけ勇ましく姿のいい馬が住んでいた。この馬は、いつも張りきって天にかけのぼろうとしていたが、神さまのゆるしが出ると、そのまま飛びあがって、まっしぐらに直江津の海へと向かった。駆けて駆けて、海まで来るとためらいもなく、あおい波の中へとびこんで行った。

 それから一年。雪どけのころ、この山の中腹には、あおい海の色に染められた、勇ましい馬の姿が、白い残雪の中に、くっきりとうかび上がった。

 ほら、南の空を見てごらん。
 今年も、妙高山の<はね馬>に会える日が、もう近い。

(おわり)

2009-02-27 12:17:35.0 馬よ、馬よ(前編)【「小さな町のスケッチ」より】

 むかしむかし、大むかし。
 山がごうごうと燃え、川がどうどうと荒れまわっていた時代がやっと過ぎて、美しい山がそびえ、ゆたかな川流れ、ひろびろとした野に、人が住みつくようになったころ。
 この地上を見まもる神さまたちが集まって、人々の暮らしを見おろすあちこちの山に、自分たちの代わりのものを置こう、ということになった。
 馬の好きな神さまは、馬を置こうと言った。牛の好きな神さまは、牛たちを呼び出した。そのほか、にわとり、うさぎ、それから、種まきじいさんのような人間のなかまを連れてくる神さまもいて、まもなく、どの山にも、にぎやかに、いろんなものの姿が見えるようになった。

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 なかでも馬の好きな神さまが多かったらしい。日本全国、北から南まで、たくさんの山に、大きいのや小さいのや、いろんなかたちの馬が住みついた。ただ立ってるのもあり、かけ出してるのもあり、田んぼでせっせと仕事してるのもあり、中には、さかだちしてるのまでいた。
 とにかくそうやって、一応、みんな山におちついたんだ。
 けれども、それからまた長い年月がたつうちに、山に住みついたものたちの中から、不満が出はじめた。神さまが見まわりにこられたとき、かれはこう言ってうったえた。

 「一年じゅう同じところにじっとしているのは、くたびれるし、退屈でたまりません。時には山からおりて、気ばらしをさせて下さい。」

 「せっかくここでこうしているのに、ふもとに住んでいる人たちは、わたしたちにはほとんど気がつきません。これではさびしいので、もっと目立つようにして下さい」

 神さまも、もっともだと思った。

 「よろしい。それでは、山には春だけいればいいことにしよう。雪どけのころ、その雪の中に姿を見せるようにしなさい。そうすれば、下からもはっきり見えるし、畑仕事の目安にもなる。そのほかの季節には、自由にしてよろしい」

(つづく)

2008-12-25 10:01:33.0 白い服のサンタクロース(後編)【小さな町のスケッチより】

(つづき)

 「ところで、これからどうやって帰んなるの」
 「くる時はバスで来たけも、もうおそくなってバスはないしけ、歩いて帰ります」
 「えっ、そりゃたいへんだ。待ってない、車で送ってあげよう」
  おばあちゃんは、びっくりしてえんりょしたけど、ひげの先生は白衣のまま、すぐ外へ出て車を運転して来て、おばあちゃんを乗せた。そして、雪の夜道を、村の入り口まで送ってくれたんだって。
 「もらって来たくすりを子どもに飲ませると、熱はじきに下がって、あくる日にはすっかり元気になったんだよ」
  でも、そのあと、かぜをひいたりして、たまにそのお医者さんへ行くことがあっても、車で送ってくれたあの親切な先生には、それっきり、会ったことがないんだって。


 「あとで聞いたら、いつもの若い先生が都合のわるいとき、たまに、もう引退した老先生が、代わりをすることがあるっていうんだけどね」
 「なーんだ。ほんとのサンタクロースじゃなかったのか」
 「いいや。どんな服を着ていようが、サンタクロースはサンタクロースだって、おばあちゃんは思ってるよ」
  バスが来た。
 「お待たせしました。足もとにお気をつけてお乗り下さい」

  若い運転手さんの元気な声に、サンタクロースの風船がゆらゆらゆれた。

2008-12-16 10:07:17.0 白い服のサンタクロース(前編)【小さな町のスケッチより】

 今日はクリスマス・イブ。おばあちゃんとケーキを買いに行った帰り、がんぎ下のベンチでバスを待っていると、むかい側のレストランの店さきに、大きなサンタクロースの風船が、ふらふらゆれている。

 「ねえ、おばあちゃん。サンタクロースって、どうしていつも赤い服を着てるんだろうね」
 「そうだねえ。でも、白い服のサンタクロースだっているよ」
 「えっ、ほんと?」
 「ああ。会ったことがあるもの」
 「おばあちゃんが?いつ?」
 「若いころさ。そのころは、山の村で、おじいちゃんと暮らしていたんだけどね。今日と同じ、クリスマスイブの夜だったよ。子供が--あんたのお父さんだよ--急に熱を出してね」

 でも、雪がたくさんつもっていて、道がわるくて、町のお医者さんへつれて行くことがができない。そのころはまだ、ふつうの家には車なんかなかったんだ。それで、電話でたのみこんで、おくすりだけ、もらいに行くことになった。

 「やっとお医者さんへ着いたけど、入り口はもうしまってる。いっしょうけんめい戸をたたいたら、ようやくあかりがついて、お医者さんが出て来たんだけど、それが、今まで見たことのない先生でね。白衣を着て、しらが頭で、まっ白な大きなひげを生やして。<やあ、待たせましたね>って、にこにこして」
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 暗い待合室で、おばあちゃんが不安な気持ちで待っていると、さっきの先生が「お待ちどおさま」とくすりを持って来て、のみ方をくわしく教えてくれた。おばあちゃんはほっとして、何度もお礼を言った。

(つづく)

2008-12-02 10:47:59.0 「小さな町のスケッチ」出版を祝う会(11/27 於 料亭 宇喜世)

 上越市の児童文学作家、杉みき子さんと画家、村山陽さんが”くびき野”をつづった三部作の完結編「小さな町のスケッチ」の出版を祝う会が27日夜、同市仲町三の料亭 宇喜世で開かれ、約110人が出席されました。

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 二人は同書についてトークショーを展開し、杉さんが「次の本を出版するための機会をねらう」、村山さんが「立って話をするのが性分」と立ち上がって身ぶりをまじえて話すと、会場から大きな笑いが起こりました。

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 杉さんは、同書について「明日への希望を持てる作品」と評されました。
 
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 また、JCV 菊谷アナウンサーにより、「月夜のクジャク」、「キュッ キュッ キュッ」、「希望」の三作品の朗読もあり、来場者からは「男の人の朗読もいいですね」という声もあがっていました。

 同書は同市内の書店でも販売されていますが、こちらからも購入できます。

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2008-11-11 17:12:28.0 雪おろしのあとで【・・つづき 11/27発売 小さな町のスケッチより】

 ぼくはそっとカーテンをあけて、外をのぞいた。そして、思わず声をたてそうになった。


 いろんな人が、一列になって歩いてくる。がんぎの屋根より高い、でこぼこの白い岩のような雪の上を、つぎつぎにわたっていくのは・・・・

 かくまきをすっぽりかぶったおばあさん。みの笠すがたのおじさん。長いマントにわらぐつの女の子。そのあとから、手ぬぐいではちまきをして、大きなソリを引くおじいさん。そのうしろは、影になってよく見えない。

 ふしぎな行列は、ときどきすべったりころんだりしながら、妙に軽やかな足どりで、道もない雪の上を、静かに通りすぎて行く。あとにはただ、青い月の光と雪の山だけが残った。


 あくる朝、いつものように早く起きたおじいちゃんの、ふしぎそうな声がした。

 「おやあ、夜の間に、こんなところ、だれが通ったんだろ」

 ぼくもいそいで起き出して窓をのぞくと、道路をうずめた雪の山の上には、たくさんの人の足あとでふみ固められた一すじの道が、くねくねとどこまでも続いていた。

                                       (終)


  

2008-11-05 20:19:54.0 雪おろしのあとで【11/27発売 小さな町のスケッチより】

 ◆「金谷山ものがたり」「くびき野ものがたり」に続く心温まる三部作完結編

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 今日は、ぼくたちの町内の一せい雪おろしだ。通りのはしっこからはしっこまで、完全に通行止めにして、車はいっさい通れない。人間も、がんぎの下を歩くだけ。でも、ここに住んでる人のほとんどは、いま屋根に上がってる。手に手にスノーダンプを持って、自分の背たけより高い屋根雪を、どんどん投げおとす。道路はみるみる雪の山。もうすぐ、がんぎの屋根までとどきそうだ。

 ぼくは、おじいちゃんと二人、二階の窓から、このようすをながめていた。
 「すごいね、おじいちゃん。この雪、あさってまでに片づくかなあ」
 
 「ああ、大丈夫だろ。 おじいちゃんの子どものころは、冬じゅう毎日、こんな雪の山だったけどね」

 「えっ、ほんと? じゃあ、車はどうしてたの?」

 「そのころは、車なんて、町に何台もなかったしね。 雪がつもってしまえば、車を走らせることなんて、はじめからあきらめてたさ」

 「じゃあ、人間はどうしてたの」

 「がんぎのないところでは、この雪の山の上を歩いたんだよ。 大きな荷物はソリにつんで、引っぱって行った」

 「うわあ、冬じゅうそんなだったの。 よく生きてられたねえ」

 「ははは、そのころは、冬っていうのはそういうもんだと思ってたからね」

 「ふうん・・・・」

 あたりが暗くなるころ、雪おろしはようやくおわった。みんな、道具をかたづけて、
「おつかれさん」の声をかわしながら、家にひっこむ。
 一日中、屋根の上で奮闘したお父さんもお母さんも、すっかりくたびれたようで、
夕食をすませておふろに入ると、テレビを見るのもそこそこにして寝てしまった。

 ぼくもねどこに入ったけど、なかなか眠れない。月が出たのか、かすかなざわめきが
聞こえたような気がして、ぼくは耳をすました。
 ざくざくと雪をふむ音。おや、だれか、ずるっと足をすべらせた。くすくすと笑い声。
また足音。
 今ごろ、だれだろ。

 ・・・・・

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2008-10-31 14:11:51.0 えんぴつの会

 児童文学作家・杉みき子さんを中心に月一回、文章の勉強会が上越市内で開かれていると聞きつけました。

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 会名は「えんぴつの会」。


 同市内の女性中心、それぞれ文章を書くことに胸ときめかせています。
 ある日の会に上越タイムスの記者・蓑和が参加しました。

 メンバーは二十三人。当番制でそれぞれ自作の文章を発表します。


 取材したある日の発表者は四人。四百字詰め原稿用紙に五枚前後、好きな題目で。随筆やエッセーに近いでしょうか。
 トップバッターは同会の日帰り旅をルポ風に、二番手は国宝の菩薩を鑑賞した時の感動をたおやかな表現でつづりました。
 そして、タイムリミット迫る中、不慣れな土地を迷走する失敗談、トキ放鳥に思いを寄せた温かい視点の作品が続きました。

 どれも作者が持ち味を発揮し、躍動的。仲間から「いいねぇ」という感想の声と、書き上げるまでの“奮闘”をたたえた拍手が寄せられます。
 本文を振り返り、よりわかりやすい書き方を杉さんらが助言。あくまでも“その人”らしさを尊重した的確な指摘です。
 
 その一例―。

  もみじなら“紅葉”、いちょうなら“黄葉”という使い分けの難しさ。また「菩薩の背中の窪み」という表現はしなやかで肉感的な印象を大事にする場合、「ひらがなのくぼみを選択するのも一案」(杉さん)
 と提案します。


 誤字も含め、細部まで丹念に確認し合い、読み手に伝わる工夫をみんなで導き出します。
 
「(日常の中で)何かに疑問を持つことがとても大切だと思います」と語った杉さんの“基本姿勢”も印象的でした。

(2008/10/31付 上越タイムスより)